甘い考え
アジアを旅した人なら誰もが目にする物乞いをする人達。
僕がカンボジアを夜一人歩いていた時、一人の女性が小さな店の前に立ってい
るのを見つけました。
僕は、彼女を見るのは初めてではありませんでした。
彼女は、毎日夜になると小さな店の前に赤ちゃんを抱きかかえて立っているので
す。
いったい彼女が何時までそこに立っているのか僕は知りません。
しかし、毎日毎日通りがかる観光客に「子供に食べるものを下さい」と
英語で紙に書いた紙を見せていました。
そう言った人達は一人ではありません。
街をしばらく歩けば100人くらいなら簡単に見つける事ができます。
僕は、一人一人に何かをあげて回れるほど余裕が無いので、
胸の痛みに耐えながら知らない振りをして通り過ぎていました。
しかし、毎晩毎晩同じ場所で抱きかかえられ眠る痩せた子供の顔を見ると、
僕の足が自然に歩みを止めてしまったのでした。
僕は歩みを止めて、小さな店に入り小さな粉ミルクを買いました。
そして、何も言わず母親が手に持っているボロボロの帽子の中にそっとそれを入
れてその場を立ち去ろうとしました。
すると母親は僕の腕を掴んで片言の英語で
「今日、明日、大丈夫、次の日、大丈夫じゃない」
と訴えるのです。
「もっとくれ」言われた僕は、どうすれば良いのか分からなくなりました。
軽い僕の同情の念が彼女の更なる物欲を煽ってしまったのか、
それとも彼女はいつも観光客にそう言って、
過去に他に何かもらう事ができた経験からそう言ったのか、頭は混乱するばかり
でした。
その時僕は、自分のごう慢さを知らされたのでした。
「物を与えれば相手が喜んで御礼を言ってくれるに違いない」と言う結果として
人を上から見た僕の推測。
「小さな奉仕をした」と言う自分への気持ちを何処かで得たかったのか・・・。
たくさんの思いが頭の中で交錯しながら、僕は母親に何度も何度も頭を下げて
その場を立ち去りました。
そしてその夜、僕の部屋では声を押し殺し泣く男の声が朝方まで響きました。
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