オランダ人夫妻の旅
タイを一人で放浪していた時、小さな田舎町の小さなお店で晩御飯を食べる事にしました。
そこは小さな屋根つきのレストランで、
英語が話せる店員さんがいる事と値段の割りになかなかのメニューを提供しているから、
多くの旅行客が利用していました。
僕は食後のビールを喉に流し込んでいると、
横に50歳前後の白人の夫婦が座りました。
彼らは、タイの田舎町であまり見ることの無い綺麗で
とてもお洒落な服装をしていたので、
僕は「夫婦で幸せな旅行を楽しんでいるんだなぁ」と思っていました。
すると奥さんが、隣で一人飲んでいた僕の事が気になったのか声をかけてきました。
奥さんの話を聞いていると、
重そうなカバンを背負って歩き回っていた僕を事前に見ていたようで、
僕が何人なのか気になっていたそうなのです。
僕が「日本人です」と言うと、
奥さんは人生で初めて日本人と話したらしく、とても嬉しそうに
「あなたが私の初めての体験をくれた!!」と大喜びしていました。
そこで僕も彼らの国籍を尋ねてみました。
すると余り僕達の会話に乗り気で無かった旦那さんが、
「ホーランドだよ!知らないだろ?」と冷たく僕に話しました。
僕は「ホーランドなんですか!?ネダランドとも言いますよね!
チューリップや木靴が有名で、
日本ではとても有名な国ですよ!!
ただ日本ではオランダと言うので日本人は、
ポーランドと勘違いしやすいんですけどね!!」
と答えました。
すると突然旦那さんが立ち上がり自分の隣の椅子を引いて、
「お前と一緒に飲みたい、僕達と一緒に飲んでくれないか?」と
隣の席を勧めて下さいました。
旦那さんはオランダを知っていた僕にとても嬉しかったのでしょう。
僕は旦那さんの変わり身に驚きながらも、夫婦と御一緒させて貰う事にしました。
二人と大いに盛り上がってお酒を飲んでいると、彼らは僕に質問攻めをしました。
僕の人生やら将来、仕事、日本についてなどたくさんの質問を浴びました。
一通りの質問攻めの後、僕は彼らについて尋ねてみる事にしました。
身なりのとても良い二人なので、
「それなりの稼ぎがある人達だ」と僕は思っていたのですが、
失礼の無いように彼らの仕事について聞いてみると、
彼らは僕に「俺たちは無職だよ!」と答えるのです。
「そんなはずは無い、冗談だろ」と思った僕は、
もう少し突っ込んで聞いてみました。
すると奥さんが、
「本当に今は無職なの、実は私は以前副社長で、旦那が社長だったの」と言いました。
良く話を聞いてみると、二人は元々従業員200人を
超える衣服の輸入業社の社長と副社長で、
その会社を去年たたんで、子供のいない二人は夫婦で旅行に出る事にしたそうです。
オランダには多くの移民が進出して、
オランダ人の人件費よりも安く働いていました。
そんな移民は年々増え続けて、
今では安い人件費で働く移民達に仕事を奪われて、
多くのオランダ人が仕事を失ったそうです。
その影響がヨーロッパから高級衣服を輸入していた二人の会社を直撃したそうです。
そして、「多くの移民達が持ち込む安い衣服に到底値段で対抗できなくなった二人の会社には
先が無い」と判断した二人は、
家や工場を含めて全ての財産を売り払い、
従業員に給料を払った後に残ったお金を銀行に入れて、
将来何をすれば良いか分からなくなった二人は、
とりあえず働いてばかりいた結婚後25年分の疲れをとるために、
アジア旅行に出る事にしたそうです。
そんな彼らは僕に言いました。
「オランダは移民を増やした政府の判断で死んだ。
今日本も移民を増やしているんだろ?早めに手を打たないと日本もオランダと同じ道を歩むよ!」
僕は日本とオランダが全く同じ状態だとは思わないのですが、
実際日本は多くの移民を受け入れ出していて、
「東京地裁の4分の1が外国人被告人である」
と言う悪い状況が起こり始めている事も事実です。
将来の子供達の日本を考えないと、取り返しのつかない事になるかも知れません。
僕とご夫婦は将来自分にどんな不安を抱えても、一緒に未来へと進む事を約束しました。
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