10円が占う未来
発展途上国を旅する人の多くは、10円に必要以上に執着します。
僕達先進国の人間は、10円に対する評価がとても低いです。
例えば10円をポケットに一枚入れておいてそれが無くなったとしても、
大騒ぎはしないでしょう。
それは10円の価値が日本では小さな駄菓子1つになる程度だからです。
しかし、発展途上国の10円の価値は、国によって10倍にも20倍にもなります。
それでも「100円200円程度じゃないか?」と思うかも知れません。
実は、旅人達が10円に執着する事には深い理由があるのです。
発展途上国で物を購入する際、
大都市にあるスーパーやデパート以外では、
ほぼ100%に近い確立で口交渉による値段付けが行われます。
多くの商売人達は「外国人=お金持ち」と判断しているので、
法外な値段をふっかけてきます(それでも日本で買う料金と同等以下の値段なんですが)。
「多くの旅行客は半額に負けてくれたから」と、
そこで納得してお金を払って商売を成立させる事が多いのですが、
旅人達はここからが違います。
多くの旅人は、「その国の人々と同じ目線の生活をしよう」と考えています。
例え10円でも安く買える場所を探し歩いて、
10円のために何時間も使う時もあるほどです。
そこには、「お金を節約するため」や
「現地の人と同じレベルの生活をしたいから」など多くの理由があるのですが、
本当の理由は別にあります。
例えば、外国人である旅人が必死に値切ったからと言って、
現地の人々と同じ料金で物を購入する事は至難の業です。
多くの場合において、いくらかの上乗せ料金を払って購入する事になります。
そんな事は、旅人達は百も承知です。
旅人達が必死に値切る理由は、
これからその国に訪れるであろう新しい旅行客のためでもあるのです。
もし、外国人旅行客のほとんどが、
何の交渉も無しに物を現地価格の10倍もの値段で買ったとしましょう。
すると外国人相手の商売をして、「ぼったくった人」の給料は10倍に跳ね上がります。
そうなると、外国人相手に商売をする人達は、
大金を手にして裕福になり、そうで無い人との貧富の差が生まれます。
貧富の深い差が生まれると、
裕福な者はしだいに警察を買収したり政治を買収します。
そうなると、人の命の重さにまで影響を及ぼす結果となるのです。
また、味を占めた商売人達は物の値段を釣り上げて、
次に来る旅行客にも高い値段で物を売ります。
そうなると、観光客の間で悪い噂が広まり気が付けば
旅行客が激減して、外貨による収入に頼って生計を建てている発展途上国は崩壊して、
最悪の場合にはお金と食料のために戦争が起こるのです。
旅人達がしている10円に対する執着は、
遠まわしにではありますが「世界平和に執着している」ように感じられて仕方ありません。
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